古民家再生で地域を変える|長崎の文化的価値と投資の両立

長崎の坂道に建つ古民家は、国際貿易の玄関口として栄えた独自の歴史を物語る文化財です。しかし空き家となる古民家が増え、解体の危機に直面しています。所有者の高齢化に伴い、相続が発生しても、後継者が地元を離れているケースも見受けられます。管理費が負担となる、活用方法が見つからないなどの理由から、貴重な古民家が失われようとしているのです。
古民家は単なる建築物ではなく、「長崎らしさ」を形づくる文化資産です。そんな古民家を再生し、新しい価値を吹き込む動きも始まっています。古民家をカフェや宿泊施設、コミュニティスペースへと生まれ変わらせる試みは、観光や地域活性の視点から注目されるだけでなく、投資としても成立する可能性を秘めています。
この記事では、長崎の古民家再生が注目される理由や投資の実現可能性、古民家再生で活用できる補助金制度、実際の再生事例、地域と連携したリノベーションの進め方を解説します。文化を残しながら、資産を作る投資の実践的な道筋です。ぜひ参考にしてみてください。
長崎の古民家が注目される理由
長崎の古民家が注目を集める背景には、国際貿易の玄関口として栄えた江戸時代から異文化が交差し、独自の文化を醸成してきた歴史があります。異国情緒あふれる街並みや、坂の多い地形に沿って築かれた立体的な景観は、全国的に見ても希有なものです。
長崎市への観光客数は年々増加しており、特に外国人観光客の増加が顕著です。 2024年の長崎市の外国人訪問者数は34万人弱で、過去最高を記録しました。コロナ禍前のピークであった2019年と比べても、宿泊客数は134%、日帰り客数は127%と増加しています。
このような流れから、長崎において空き家となった古民家を民泊や宿泊施設として再生する動きが出てきました。長崎の文化や歴史が感じられる町並みは、フォトジェニックな観光地にもなります。SNSの時代に相性の良いプロモーション効果を生み、地域活性につながります。
古民家の再生は、文化的価値の保全と地域経済の活性化が両立できる理想的なアプローチです。古民家は空き家となり放置されると、不審者など防犯上の問題やごみの投棄、倒壊の危険性、老朽化や雑草による景観上の問題が起こり、地域の生活に深刻な影響を及ぼします。反対に、再生すれば、地域全体の価値を高めることができるのです。
参考:一般社団法人長崎国際観光コンベンション協会「『令和6年度 観光まちづくりマーケティングリサーチ』2024年長崎市 訪日外国人観光客分析 第4四半期速報」
再生と投資の両立は可能か?
古民家再生は文化的意義が高い一方で、「ビジネスとして成り立つのか?」という疑問を持つ人も多いでしょう。結論から言えば、長崎では十分に両立可能です。
その理由を大きく4つにわけて説明します。
1.選択肢が多様である
先ほど述べたとおり、長崎は観光都市としての集客力があるため、古民家をリノベーションした後の用途の選択肢が多様です。
まず、民泊・ゲストハウスとしての活用が考えられます。長崎の坂の多い地形を生かした景観や地元の食材を使った食事をかけ合わせれば、より魅力的な宿泊施設となるでしょう。
路地裏のカフェ・雑貨店として蘇らせることも可能です。市街地や観光地に近い古民家をリノベーションして、和モダンなカフェや雑貨店にすれば、旅行者が自然に立ち寄るスポットとなることが期待できます。古民家ならではの落ち着いた空間は、ゆったりとした時間を過ごしたい観光客のニーズにマッチします。
レンタルスペースや地域のコミュニティスペースも選択肢のひとつです。観光客と地元住民が交流する場となれば、地域活性が期待できます。
2.初期投資を抑え、高い利回りを期待できる
空き家となった古民家は安く売り出されることが多く、長崎では500万円以下で購入できる古民家も存在します。都市部の新築物件と比較すると取得コストは大幅に低く、リノベーション費用を含めても総投資額を抑えられる点が大きなメリットです。
リノベーションを施すことで、初期投資を抑えつつ高い価値を付加することが可能です。リノベーションした後は、概算で以下のような収入が見込めます。
- 民泊:1泊2万円×稼働率60%=月36万円、年間432万円の売上
- カフェ:席数20席×客単価1,000円×1日30人来店=年間約1,000万円の売上
この売上から、水道光熱費や清掃費、消耗品費、保険料、税金などを差し引いた分が利益です。実際に事業を始めるとなると、より厳密な計算が必要ではあるものの、古民家を再生して高い利回りを期待できることがイメージできるかと思います。
3.金融機関の関心が高まっている
昨今、古民家再生に関心を持つ層が拡大しています。ESG投資や社会的なインパクトの重要性が認識されるなかで、「利益と社会貢献の両立」ができる古民家再生に対して、長崎の地方銀行や信用金庫も前向きになっている傾向です。地域創生や空き家対策という社会課題の解決に貢献する事業として、融資審査においても評価されやすくなっています。
このように、長崎で古民家を再生し、投資として成立させられる可能性は十分に見込めます。古民家を再生すれば、地域の空き家問題や景観維持に貢献できます。古民家再生は、私的利益と公共利益の両立が可能な事業モデルなのです。
古民家再生で活用できる補助金制度
古民家再生には、いくつかの補助金制度を活用できる可能性があります。
まず長崎市には、「住宅リフォーム支援補助金」の制度があります。住宅の省エネ化、バリアフリー化、居住性向上、住宅リフォーム工事に要する費用の一部を助成してもらえる制度です。対象となるのは、補助対象者が居住または居住を予定する長崎市内の住宅ですが、店舗や事務所との併用住宅でも、居住する部分に限り適用されます。
長崎市には、「移住支援空き家リフォーム補助金」の制度も用意されています。これは、空き家改修にかかる工事費用の50%(上限50万円)が支給される補助金です。空き家を有効活用して、移住や地域コミュニティを促進することが目的とされており、移住のために活用する戸建の空き家が対象となります。
また、古民家の耐震改修を行う際に活躍できる補助金もあります。「長崎市・木造戸建住宅の耐震改修の助成制度」です。この助成制度には、「耐震診断支援事業」と「耐震化総合支援事業(改修工事・現地建替)」などにわけられています。
「耐震診断支援事業」では、耐震診断費136,000円のうち、113,000円が助成され、自己負担額を23,000円に抑えられます。「耐震化総合支援事業(改修工事・現地建替)」では、工事費の80%が助成され、上限は100万円です。
さらに、「ながさき元気づくり応援助成事業」も活用を検討したい制度です。この事業では、自治体と連携して取り組むまちづくり活動に対して、クラウドファンディング型ふるさと納税により、集まった寄附額に応じて助成金が交付されます。ただし、審査に通過しなければならず、応募できるのは市内の地域団体か市民活動団体に限られるため注意が必要です。
これらの補助金を活用すれば、初期費用の負担を軽減できます。各補助金には細かい要件が定められているため、詳細は長崎市のホームページにてご確認ください。
参考:長崎市「令和7年度 住宅リフォーム支援補助金」
参考:長崎市「令和7年度 移住支援空き家リフォーム補助金(定住促進空き家活用補助金)」
参照:長崎市「耐震改修の助成制度(木造戸建住宅)」
参考:長崎市「地域団体等が実施するまちづくり活動を応援します!(令和7年ながさき元気づくり応援助成事業)」
実際の事例:長崎市京町の古民家再生プロジェクト
古民家再生には、どのような事例があるのでしょうか。ここでは、長崎市で実際に手がけられた古民家再生プロジェクトを紹介します。
長崎市梅香崎町にある一軒の木造2階建て。幕末に建てられた、長崎市に現存する最古の町屋です。明治12(1879)年に中古で購入した所有者が米屋、肥料店から商売を始め、商店を開きました。
原爆や大水害という歴史的災害を経験しながらも残り続け、長崎市の国指定史跡「出島和蘭商館跡」の復元工事では、建物の外壁の参考にまでされた貴重な建築物です。
その後閉店し、所有者は、管理費などの負担を考えて解体を決意します。ところが、解体予定日が残り1か月と迫った、2021年の冬のこと。長崎市内で空き家リノベーション事業を展開する会社の社長と長崎市の職員が、この古民家を改修して残すことを所有者に提案したのです。
同社が古民家を再生し、多くの女性に利用されるようになったレンタルスペースが近くにあったことから、この古民家も女性向けにリノベーションすることになりました。同社が古民家を借り上げ、約5か月間にわたり工事を行い、レンタルスペース3部屋とカフェが完成。元々使われていた家具はインテリアに活用され、天井や柱、表札もそのまま残されました。
解体されるはずだった古民家が再生されたことで、貴重な建築物が残され、人々が集まる場所に息を吹き返したのです。
参考:長崎新聞「築170年の長崎の古民家 解体取りやめ、カフェに再生へ 女性応援のレンタルスペースも」
参考:NBC長崎放送「築170年の現存する最古の“町屋” 解体直前に借り上げてカフェなどの「憩いの場」にリノベーション」
地域と連携したリノベーションの進め方
最後に、地域と連携して古民家のリノベーションを進める流れをお伝えします。
ステップ1:地域の文脈を知る
まずは、その土地の歴史・文化・地形を理解することから始めましょう。長崎市であれば、前述したように、国際貿易の玄関口として栄え独自の文化を醸成してきた歴史、異国情緒あふれる街並み、坂の多い地形に沿って築かれた立体的な景観などが存在します。
このような地域の文脈を理解してこそ、真の再生が可能となります。
ステップ2:行政・専門家に相談する
古民家を再生する際は、行政に相談すると良いでしょう。たとえば長崎では、長崎県宅地建物取引業協会に「ながさき空家相談窓口」が設けられています。
古民家再生を得意とする、地元の不動産会社に相談するのもおすすめです。地域の市場動向や需要を熟知している専門家の意見は、事業計画を立てるうえで役に立ちます。
ステップ3:収益モデルを明確にする
古民家の文化的価値を守り続けるためには、経済的に持続することが重要です。事業を継続できるのか、収益モデルをシミュレーションしましょう。初期投資額、月々の運営コスト、想定される売上を具体的に数値化し、利回りや投資回収期間を算出します。
最終的に賃貸するのか売却するのかなど、出口戦略を描いておくことも大切です。複数のシナリオを用意しておくことで、市場環境の変化にも柔軟に対応できるでしょう。
ステップ4:地域の雇用を生み出す
古民家再生の工事や資材の調達において、地元の業者や職人に依頼すれば、雇用の面でも地域貢献が可能です。地域に受け継がれて来た伝統的な技能を、次世代に継承する機会も早出できます。
豊富な知識を持った業者や職人を頼り、古民家を再生させましょう。
まとめ:文化を残しながら資産を作る投資
古民家再生は、単なる不動産投資ではありません。地域の文化を残しながら資産を生み出す、社会的価値の高い事業です。古民家再生は、貴重な建築物を保全する文化的価値、空き家問題を解決する地域的価値、そして投資としての経済的価値を生み出すのです。
長崎は異文化が交わり、坂の地形が景観を形づくる独特の街だからこそ、魅力的な古民家が存在します。この記事で紹介した事例のように、解体される予定の古民家が人々の手で再生されると、カフェやレンタルスペースとして再び息を吹き返します。
古民家は空き家として放置されれば、朽ちていきます。しかし再生すれば、文化を守り、地域を活性化し、持続可能な投資が実現されます。古民家再生は、長崎の未来を左右する選択でもあるのです。
地域の人々と協働しながら、古民家を再生し、生活・仕事・観光が交差する新しい価値を生み出す投資は、長崎において「社会的に価値のある投資」といえるでしょう。