相続で空き家が共有名義に‥‥トラブル回避のための共有持分対策

空き家問題が社会的な課題として取り上げられるようになり久しいですが、その背景をたどると「相続」によって空き家が発生しているケースが多くあるのです。
特に、相続した家が兄弟姉妹や親族の「共有持分(共有名義)」となり、所有者が複数に渡る場合、管理や処分をめぐって話し合いが進まず、思わぬトラブルに発展することがあります。
「実家を相続したけれど、兄弟と話がまとまらない」
「誰も住まないのに、管理や税金の負担だけが続いている」
こうした声を、私も何度となく耳にしてきました。
この記事では「空き家の共有持分」をめぐるトラブルや放置のリスク、そして具体的な解決方法や相談先について、当社が拠点を置く長崎など地域の事情も交えながら解説します。
空き家の共有持分とは?
「共有持分」とは、不動産を複数人で所有する場合の所有権の割合を意味します。相続で不動産を引き継ぐとき、遺言書などがなければ、法定の割合に従って親族が相続することもあれば、遺産分割の結果によって割合が異なることもあります。
例えば、3人兄弟で均等に、それぞれ3分の1ずつの共有持分となったケースを考えてみましょう。家を物理的に3つに分けることはできませんので、この場合、「1軒の家を3人で共同所有」している状態となります。
一見平和に解決したように見えますが、問題はここからです。
不動産について売却や大規模な修繕、解体、建て替えなど重要な決定事項は、原則、共有者である兄弟3人全員の合意が必要です。誰か一人でも反対すれば、何も進まず、結果として空き家が放置されてしまうのです。
共有持分をめぐるトラブル事例
共有持分をめぐって起こるトラブルを、事例とともに紹介します。
・意思決定がまとまらない
相続人3人が異なる意見を持っており、Aさんは「いずれ自分が住みたいからそのまま」、Bさんは「売却して現金を分けたい」、Cさんは「リフォームして賃貸したい」。話し合いは平行線をたどり、結局、手付かずのまま何年も放置された家は、老朽化が進み、近隣から苦情が出てしまった。
・負担割合をめぐる不満
庭木の剪定や固定資産税の支払いなどをめぐり、ある相続人から「自分は住んでいないのになぜ費用を負担しなければならないのか」と不満が噴出。結局、一部の相続人だけが費用を払い続け、親族との関係がぎくしゃくしてしまった。
こうした事例は珍しくなく、特に相続人が遠方に住んでいる、連絡が取れないなどの事情があると、管理や処分がより難航する傾向にあります。
また、長年手付かずのまま共有者が亡くなり、さらに相続が発生し人数が増えて収拾がつかなくなってしまうケースもあります。
空き家を放置するリスク
人が住まなくなった家は想像以上のスピードで傷んでいきます。
こまめに換気や通水がされていないと、湿気によるカビやシロアリが発生し、柱や梁などの木材を傷め、劣化させます。
また、一夏でも雑草や庭木は驚くほど成長します。放置すると、根が床下に入り込んだり、蔓が外壁に絡みついたり、屋根瓦やトタンを浮き上がらせるなど、いずれ建物を倒壊させるほど深刻なダメージをもたらします。敷地の外にまで伸びた枝や根による侵食や、落ち葉で排水溝が詰まるなど、近隣に住む人とのトラブルの原因になりかねません。
さらには行政から「管理不全空き家」や「特定空き家」に指定される恐れがあります。荒れてひと気のない空き家は不法投棄や、不法侵入、放火など標的にされやすく、地域の防犯上の観点からも深刻な問題です。
指定されると、固定資産税の優遇が外れて税負担が重くなるばかりか、行政から修繕や解体を命じられ、強制的に対応を迫られることもあります。場合によっては、行政が解体を代行することもあります。当然、その費用は所有者である共有者全員にのしかかるのです。
また、人が住めないほど建物が傷んでしまうと、不動産としての価値も低下し、売却や活用のチャンスを逃すことになりかねません。売却できたとしても、売買代金を上回る費用がかかることもあります。
「とりあえずこのままにしておこう」「しばらく様子を見よう」「何か言われたら対応しよう」と安易に考えて放置していると、資産価値も、活用の選択肢もなくなり、負担だけが残るといった最悪の事態にもなりかねないのです。
共有持分のトラブル解決方法
では、トラブル回避、解決のためにどうすれば良いか。2つの方法を紹介させてください。
方法1:持分譲渡
共有者同士の話し合いが可能なら、共有者の一人が他の人の持分を買い取るのがシンプルな解決策です。所有者を一本化すれば、管理や売却の意思決定がスムーズになります。
資金的に難しければ、不動産会社など第三者に共有持分を個別に売却する方法もあります。最近は「共有持分の買取」を専門に扱う業者が増えており、手間や時間をかけずに解決できることもあります。
方法2:共有物分割請求
協議がまとまらない場合、裁判所に「共有物分割請求」を行うことが可能です。「裁判所が不動産を売却し代金を分割する」という判断が下ることが多く、司法に判断を委ねることで、強制的に解決へ進めることができます。
ただし、裁判には時間と費用がかかりますし、強制力を伴う解決策であるため、親族との間で不和を生じる恐れもあります。専門家を通じて、できるだけ共有者同士の協議による解決を目指すことが望ましいです。
長崎の地域事情から見る共有持分問題
共有持分の問題は、物件が所在する地域によっても事情は異なります。
一例として、当社が拠点を置く長崎市に注目してみましょう。
坂道の多い長崎市は、平地と斜面地で中古住宅の需要や価格に大きな差が見られます。生活に車が欠かせず、駐車場がないと買い手がつきにくい傾向にあります。
さらには、古い物件の場合、建築制限が問題になることも。時代が変わり、一度取り壊してしまうと、再度同じ規模の建物が建てられないことがあるのです。そのため、空き家を安易に取り壊すと、利用価値の低い土地として売却すら困難になってしまうこともあるのです。
地方の人口減少も進むなかで、共有持分のまま放置すると資産価値はますます低下し、「資産だと思っていたら、まさかの大赤字」といったことが懸念されます。
そして長崎市のような地方都市では、共有名義人が地元を離れていることも少なくありません。そうなれば、意思決定にさらに時間がかかり、管理や処分が遅くなってしまうのです。地元に残った一部の人に管理の負担が集中してしまうのもトラブルの元になりやすいです。
共有持分問題の解決には、こうした地域の事情も踏まえた上、責任を整理することが、大切な一歩です。
専門家に相談するメリット
「兄弟で話しても進まない」「誰に相談していいかわからない」
身内ほど財産の話は揉めるもの。話がこじれて関係が悪くなり、話を持ち出すことすら難しくなることも。そんなときは専門家に相談するのが一番の近道です。
弁護士:共有物分割請求など法的手続きに精通しています。権利関係を整理のために交渉などをサポートしてくれます。
司法書士:相続登記や名義変更の手続きを代行してくれます。未登記のまま放置しないためにも相談することがおすすめです。
不動産会社・買取業者:不動産の現金化をサポートしてくれます。金額の査定から、売却先探し、契約手続きを一括して依頼できます。自社で買い取りをする業者もあります。
地域の不動産情報や事例に詳しく、士業や建物の解体や修繕の業者の紹介など幅広いアドバイスを受けることができます。
身内や共有者同士だけでは行き詰まっていた問題も、専門家のサポートで、驚くほどスムーズに動き出すことが多いです。
まずは、状況の整理や情報収集のために、地域の無料相談窓口などを利用してみるのもよいでしょう。
まとめ
相続で物件が共有持分になるのは珍しいことではありません。むしろ日本中で起きている身近な問題です。
しかし、お伝えしたように建物の劣化や費用不安、権利関係の複雑化など、時間をかけるほど解決が難航する問題でもあります。
「対応に時間をかけない」というのが、共有持分のトラブルを防ぐ最善策と言えるでしょう。
そもそも共有持分となったのは、亡くなったご家族の大切な資産を遺された者で公平に持ち合おう、という思いやりの心からだと思うのです。
だからこそ、相続人が揉めることなくスムーズに話を進めることが、ご家族のためを想っても最善のことと私は考えています。本記事が、そのための第一歩となればとても嬉しいです。
そして、もし今まさに共有名義の空き家を抱えていらっしゃるなら、放置せず、まずは専門家への相談から始めてみましょう。