【長崎版まちづくり】空き家を京町家風にリノベして観光資源にする方法

長崎市をはじめ、長崎県内では人口減少や高齢化、若者の県外流出により、空き家が年々増え続けています。
長崎は、観光地としてのポテンシャルを大いに秘めているまちです。異国情緒あふれるまち並みや坂の風景は、国内外の旅行者を魅了し続けています。一方で、建物の老朽化や放置された空き家が課題となっています。空き家問題が深刻化すれば、地域の景観や治安にも影響を及ぼしかねません。
そこで注目したいのが、「京町家風リノベーション」のアイデアです。京町家風リノベーションとは、京都で成功した町家再生の事例を参考に、長崎の空き家を「観光資源」に変える取り組みです。
古い建物が持つ歴史的価値や趣を活かしつつ現代のニーズに合わせて再生することで、観光や地域再生につながる可能性があります。
この記事では、京町家の魅力や長崎の空き家との共通点、観光資源化するためのアイデアから費用感まで解説します。
京町家の魅力とは?
京都のまちを歩いていて、趣のある木造家屋が立ち並ぶ風景に心を惹かれたことがありませんか?これが、京町家です。
京町家は、かつて京都の商人が住居と店舗を兼ねていた伝統的な建築様式です。通りに面して間口が狭く、奥行きが深い「うなぎの寝床」と呼ばれる独特の構造が特徴です。
通り庇(とおりひさし)や格子(こうし)、虫籠窓(むしこまど)など独特の意匠も、京都の歴史と風情を今に伝えています。坪庭や縁側といった日本建築ならではの空間は、現代人が失いつつあるゆとりと和の精神を感じさせてくれます。
近年、この京町家を再生する取り組みが盛んです。老朽化した建物を解体するのではなく、その趣を生かしたカフェやレストラン、宿泊施設、ギャラリー、工房にリノベーションされています。
注目すべきは、京町屋が単なる商業空間ではなく、「文化体験」の場として機能していることです。京町家での滞在や食事は、単なるサービスの提供を超えて、日本の歴史や文化を感じる特別な体験となります。ホテルや現代的なビルでは味わえない、趣のある空間が外国人観光客からも高く評価されているのです。
一つひとつの京町家が再生されることで、街全体がレトロで統一感のある景観へと変化しています。路地裏の散策や偶然見つけた隠れ家のようなお店との出会いが、観光客を惹きつけています。
長崎の空き家と京町家の共通点
京町家は、京都だけの特別なもののように感じるかもしれません。しかし、長崎の空き家と京町家には、意外にもいくつかの共通点が存在します。
共通点の1つ目は、木造建築や瓦屋根です。長崎の古い空き家には京町家と同じく、日本の伝統的な建築様式が色濃く残っています。また坂の多い長崎では、細い路地に沿って家が密集しています。これは、京都のまち並みと共通する景観です。
次に、独自の魅力を生み出せる可能性を秘めていることです。長崎は山と海に囲まれた地形で、坂道に沿って建ち並ぶ住宅群が独特の景観を生み出しています。高低差のあるまち並みは、立体的で変化に富んだ美しさがあり、観光資源として魅力的な要素です。
さらに、長崎は鎖国時代に唯一の貿易港として栄え、異国文化と日本文化が融合した独自の歴史を育んできました。この歴史が、まちの景観にも色濃く反映されています。
つまり「京都の町家」と「長崎の港町文化・地形」をかけ合わせれば、他では体験できない唯一無二の観光資源を創出することが可能です。
京都の町家が「和の文化体験」という魅力を有しているのであれば、長崎は「異国情緒と和が融合した文化体験」を提供できるでしょう。長崎でしか味わえない町家体験を生みだせるのです。
京町家風リノベーションで空き家を観光資源化するアイデア
長崎の空き家を京町家のように観光資源として活用するにはどうしたら良いのか、具体的なアイデアを提示します。
1つ目は、民泊・ゲストハウスです。空き家を京町家風にリノベーションし、宿泊施設として提供します。長崎はインバウンドも多く、クルーズ船で訪れる旅行者や韓国・台湾からの短期滞在客に人気です。
たとえば、坂道に建つ民泊やゲストハウスで、朝起きて障子を開けると目の前に広がる長崎港の景色、夕方には夕日が海に沈む光景を望めれば、国内外の観光客にとって忘れがたい体験となるでしょう。
地元の食材を使った朝食の提供や、着物のレンタルサービスなどを組み合わせることで、滞在の満足度をより高めることができます。
2つ目は、路地裏のカフェ・雑貨店です。長崎の細い路地と京町家風の店舗は、まち歩き観光との相性が抜群です。市街地や観光地に近い空き家をリノベーションし、和モダンなカフェや雑貨店にすれば、旅行者が自然に立ち寄るスポットとなるでしょう。
長崎の路地で出会う京町家風カフェや雑貨店はSNS映えもし、若い世代を中心に口コミで広がることも期待できます。
3つ目は、レンタルスペースです。伝統建築風のレンタルスペースとして活用し、各種ワークショップや文化体験イベントを開催します。
レンタルスペースでは、観光客向けに茶道、書道、陶芸、和菓子作り、着物着付け、長崎の伝統工芸品制作など、和の空間ならではの文化体験プログラムを提供できます。
また、地域住民のコミュニティ活動の場としても活用可能です。観光客と地元住民の交流を促すことができれば、きっと双方にとって心温まる思い出になります。
4つ目は、長崎版の町屋ストリートです。長崎の古い住宅街や坂道が続くエリア、観光地に近いエリアなどで、複数の空き家をまとめて京町家風にリノベーションします。個々の空き家のリノベーションに留まらず、面で展開し長崎版町家ストリートを形成できれば、大きなインパクトを生み出せます。
まち全体が一つの大きな観光資源となり、観光客の滞在時間の延長と消費拡大につながるでしょう。複数の空き家を一体的にリノベし、統一感あるエリアを形成すれば、観光資源としての価値が一気に高まります。
地域活性化の視点で見た成功ポイント
長崎の空き家を京町家風にリノベーションして、観光資源として活用するアイデアを4つ紹介しました。ここからは地域活性化の視点で、このリノベーションの成功ポイントをお伝えします。
<段階的に点から面へ>
一度に大規模な整備を目指すのではなく、まずは1〜2軒の空き家からリノベーションを始め、少しずつ町並みを変えていくのが現実的です。
モデルケースとなる数軒の空き家を選定し、成功事例を作ることから始めます。立地条件の良い空き家や、所有者の理解と協力を得やすい空き家を優先的に選択することで、初期投資のリスクを抑えながら、着実に成果を上げられるでしょう。
成功事例が生まれれば、それを見た他の空き家所有者や投資家の関心も高まり、自然な形で取り組みが広がっていくことが期待できます。
<空き家=資産への意識転換>
空き家は放置すると、固定資産税や管理費用の負担、倒壊の危険、防犯面での不安、ごみの不法投棄の懸念などを抱えた負債になりかねません。万が一、管理不全の空き家が近隣に被害を与えた場合、損害賠償が発生するリスクも潜んでいます。
しかし空き家を観光資源として活用し、人が利用するようになれば、「空き家=負債」から「空き家=資産」への根本的な価値転換を実現できるのです。これまで費用負担のみが発生していた空き家が、家賃収入や事業収入を生み出す収益物件に変貌することで、所有者にとって大きなメリットとなります。この意識転換が重要です。
防犯面での不安が軽減し、景観も改善されることから、地域住民全体にとってもメリットとなります。
<地域の雇用の創出>
空き家のリノベーション事業は、建設・改修工事の段階から地域活性化に寄与します。地元の職人や工務店、デザイナー、インテリア業者などと連携すれば、地域の雇用を創出できるからです。
それだけではなく、経験豊富な職人の知識や技術を次世代に継承したり、後継者を育成したりする機会にもなります。
リノベーション完了後の施設運営においても、清掃や設備点検、接客など、様々な分野での雇用が生み出せます。
空き家のリノベーションは、地域経済にも貢献できるのです。
<行政による補助の活用>
空き家の観光資源化を成功させるためには、行政による補助も活用したいところです。
たとえば、長崎市では「住宅リフォーム支援補助金」があります。この制度は、住宅の省エネ化、バリアフリー化、居住性向上、住宅リフォーム工事に要する費用の一部が助成されるものです。対象となるのは、補助対象者が居住または居住を予定する長崎市内の住宅ですが、店舗や事務所との併用住宅でも、居住する部分に限り適用されます。
長崎市には、「移住支援空き家リフォーム補助金」の制度も用意されており、空き家改修にかかる工事費用の50%(上限50万円)が支給されます。対象は、移住のために活用する戸建の空き家です。
その他、「ながさき元気づくり応援助成事業」も活用できる可能性があります。これは、自治体と連携して取り組むまちづくり活動に対して、クラウドファンディング型ふるさと納税により、集まった寄附額に応じて助成金が交付される制度です。ただし、応募できるのは市内の地域団体か市民活動団体に限り、審査に通過する必要があります。
このような制度を活用することで、初期投資の負担を軽減することが可能です。しかしいずれの制度も細かい要件が設けられており、すべての空き家リノベーションが対象になるわけではありません。気になる方は、長崎市のホームページで詳細を確認してみてください。
参考:長崎市「令和7年度 住宅リフォーム支援補助金」
参考:長崎市「令和7年度 移住支援空き家リフォーム補助金(定住促進空き家活用補助金)」
参考:長崎市「地域団体等が実施するまちづくり活動を応援します!(令和7年ながさき元気づくり応援助成事業)」
費用感と実現可能性
最後に、空き家活用の費用感と実現可能性をご説明します。
まず、建物の構造はそのままで内装を京町家風に変えるだけであれば、数百万円で実現可能です。畳の敷設、障子・ふすまの設置、和室用照明の導入、壁紙の変更などが主な工事内容となります。
一方、本格的な京町家風のファサード、すなわち外観デザインを作り上げる場合は、1,000万円以上の投資が必要であると考えて良いでしょう。屋根や外壁の改修、格子の設置が含まれるためです。
大規模の投資を行った場合、完成する施設のクオリティと独自性は大幅に向上し、より高い宿泊料金や利用料金を設定できます。観光利用を前提とすれば、投資回収が可能です。
あくまで概算ですが、以下のような売上が期待できます。
- 民泊:1泊2万円×稼働率60%=月36万円、年間432万円の売上
- カフェ:席数20席×客単価1,000円×1日30人来店=年間約1,000万円の売上
ここから水道光熱費や清掃費、消耗品費、保険料、税金などを差し引いた分が利益となります。実際には、もっと厳密な採算性の検証が必要ですが、空き家リノベーションの費用を回収できる可能性は十分にあるのです。
さらに、新型コロナウイルスの影響で一時的に落ち込んでいた海外からの観光客が回復していることも追い風になっています。日本の伝統文化に関心の高い欧米からの観光客や、アジアのリピーター観光客にとって、京町家風の施設は魅力的な選択肢となるでしょう。
長崎は、従来から外国人観光客に人気の高い観光地です。京町家風のユニークな民泊やカフェが増加することでより多様なニーズに応えることができ、観光地としての競争力の向上が期待できます。
まとめ
空き家は何も手を加えなければ、費用負担やさまざまなリスクを抱える負債のままです。しかし、資産として活用するという発想の転換により、根本的な解決を図れます。
今回紹介した京町家風のリノベーションは、このようなアプローチの具体例です。京都の町屋の成功事例をヒントにしつつ、長崎ならではの坂の多い地形が生み出す景観、港町として培われた国際的な文化と融合することで、「長崎版町家まちづくり」という新しいカテゴリーの観光資源を創出できます。
これは、個々の空き家所有者にとってのメリットにとどまらず、地域全体の活性化につながる取り組みです。空き家所有者のみならず、投資家や行政が一体となって取り組めば、点在する空き家が資産となり、まち全体が活気づく未来が訪れるでしょう。
「空き家=負債」から「空き家=観光資源」へ。長崎のまちづくりの新しい道筋は、この発想の転換から始まります。