空き家の土葺き屋根は危険?所有者が知っておくべきリスクと対応方法

「空き家の屋根が土葺きなのですが、このまま放置しても大丈夫でしょうか?」これは、空き家を所有している方からよく寄せられる質問のひとつです。
土葺き屋根は、築年数の古い家でよく見られる工法です。日本の伝統的な工法で、かつて土葺き屋根で建てられた家は、今でも残っています。普段なかなか耳にすることがない、土葺き屋根。放置しても問題ないか気になりますよね。
現代の屋根と何が違うのか、どのように対応すべきなのかわからず、そのままにしている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、土葺き屋根を放置すると思わぬリスクにつながります。結論から述べると、早めの対策が安全面・費用面でもおすすめです。
この記事では、土葺き屋根の特徴とリスク、対応方法、修繕費用や補助制度を網羅してお伝えします。土葺き屋根の空き家を所有している方は、ぜひ参考にしてください。
土葺き屋根とは?
土葺き屋根(どぶきやね・つちぶきやね)は、瓦の下に粘土質の土を大量に敷き詰め、瓦を安定させる伝統的な工法で、昭和初期まで広く普及していました。
現在主流となっている、防水シートの上に直接瓦を固定する乾式工法とは異なり、土葺き屋根は瓦と瓦の間に土を敷くことで、雨水の侵入を防ぎながら瓦を安定させる役割を果たしていました。
土葺き屋根が、長年にわたって日本の住宅で採用されてきたのには理由があります。それは、断熱性・防音性に優れているというメリットがあるからです。土は熱を伝えにくく、夏の暑さを和らげる効果があります。さらに、雨音や外部の騒音を吸収し、静かで快適な住環境を作り出していました。
一方で、土葺き屋根には現代の住宅事情に合わない大きなデメリットも存在します。デメリットは、重量が重く、耐震性に問題があることです。一般的な30坪程度の住宅の場合、屋根だけで数トンになるとも言われています。
大量の土と瓦で屋根が重くなり、建物全体に大きな負荷がかかります。その重さによって地震の揺れが大きくなり、建物が倒壊しやすいのです。
1923(大正12)年に起きた関東大震災をきっかけに、土葺き屋根は減りました。関東大震災によって倒壊する家屋、瓦が落ちる家屋には、土葺き屋根が多かったためです。
その後、1995(平成7)年の阪神・淡路大震災でも土葺き屋根の家屋が多く倒壊し、土葺き屋根は施工されなくなりました。
土葺き屋根はかつてよく用いられていた工法ですが、現代の耐震基準で考えると安全性が低く、大幅に減少しました。現在の建築基準法では、このような重量の屋根は耐震基準を満たすことが難しく、新築時に土葺き屋根を採用することはほとんどありません。
しかし、特に大きな震災のなかった地域にある築50年を超えるような物件では、土葺き屋根が残っています。
空き家の土葺き屋根を放置するリスク
土葺き屋根の空き家を所有している方もいらっしゃると思いますが、土葺き屋根の空き家をそのままにしておくと、リスクがあります。まずは、下記のようなリスクが潜んでいることを認識しましょう。
<倒壊リスク>
先ほど述べたとおり、土葺き屋根は非常に重く耐震性が低いことがリスクです。
築年数の古い建物はそもそも現在の耐震基準を満たしていないことが多く、そこに重い屋根が乗っている状態は、地震に対して極めて脆弱です。土葺き屋根の建物は、重心が高い位置にあるため揺れが大きくなり、屋根の重みに耐えきれず建物全体が倒壊するリスクが高まります。
日本では、いつどこで地震が発生してもおかしくありません。これまで大きな震災のなかった地域では土葺き屋根の住宅が比較的残っていますが、今後震災が起こると、倒壊する危険性があります。
<雨漏り・腐朽>
土は湿気を吸いやすいため、屋根下地の木材が腐りやすいことも土葺き屋根のリスクです。木材が腐敗すると、雨漏りや天井の崩落を引き起こします。
空き家の場合、定期的な換気が行われないため湿気がこもりやすく、被害が進行しやすくなります。また、誰も住んでいないため雨漏りに気づくのも遅れ、内部の腐朽が一気に進みやすい点にも注意が必要です。
一度木材が腐ってしまうと、屋根全体の強度が低下し、さらに雨漏りが進行するという悪循環に陥ります。気づかないうちに屋根裏の構造がボロボロになり、ある日突然天井が抜けるといった事態も起こり得ます。
<害虫・カビ被害>
家の木材を食い荒らし、建物の構造を内部から蝕んでいくシロアリにとって、湿った土や木材は格好の繁殖場所です。隙間ができ、そこから虫が入り込むケースも考えられます。
湿った土は、カビの温床にもなります。カビは建材を劣化させるだけでなく、健康被害を引き起こす可能性もあり、見逃せない問題です。
土葺き屋根は、このような害虫・カビ被害が懸念されるのです。この問題もあなどれません。
<近隣への被害>
土葺き屋根には、近隣への被害を起こすリスクも潜んでいます。瓦のズレや漆喰の劣化を放置すると、風や地震で瓦が落下し、近隣の家屋や通行人に被害を及ぼす可能性があります。自分の家だけでなく、近隣にまで迷惑をかける恐れがあるということです。
民法717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)により、建物の所有者は第三者に与えた損害について無過失責任を負います。つまり、所有者に過失がなくても、建物の不備による被害について賠償責任が生じます。
一見、何も問題ないように思える土葺き屋根には、倒壊リスク、雨漏り・腐朽、害虫・カビ被害、近隣への被害といった、極めて重大なリスクが潜んでいるのです。
所有者がとるべき対応方法
土葺き屋根には、さまざまなデメリットやリスクがあることをお伝えしました。「今は大丈夫」と思っていても、急に発生する地震や気づかぬうちの腐敗により、重大な問題を引き起こす恐れがあります。
では、土葺き屋根の空き家を所有している場合、どのように対応すれば良いのでしょうか。
<定期点検>
まず、すぐにできる対応として、ご自身で屋根の状態をチェックしてみましょう。ただし高所での作業は危険を伴うため、無理のない範囲で、地上から確認できる部分だけで構いません。
天井や壁、屋根裏に雨漏り跡がないか、瓦のズレや割れがないか、瓦と瓦の間にある漆喰が劣化していないかを確認しましょう。
ご自身で定期的に目視で確認することも大事ですが、専門業者に屋根診断を依頼するとより安心です。特に一度も点検をしたことがない方は、ぜひ専門業者による診断を実施してください。
<葺き替え工事(軽量化工事)>
土葺き屋根の空き家の対応として最も安心なのは、土葺き屋根から軽量屋根への葺き替え工事です。
葺き替え工事では、まず屋根の瓦と土をすべて撤去します。その後、新しい防水シートを張り、軽量瓦や金属屋根(ガルバリウム鋼板など)に葺き替えます。
この工事の最大のメリットは、建物の耐震性が大幅に改善されることです。屋根が軽くなることで地震時の揺れが小さくなり、倒壊リスクを大きく軽減できます。新しい屋根材にすることで雨漏りの心配もなくなり、建物の寿命を延ばせます。
軽量屋根への葺き替え工事を実施すれば、土葺き屋根に関する心配事が解消され、安心できるようになるのです。この精神的メリットは大きいでしょう。
長期的に空き家を活用する予定がある場合は、葺き替え工事が最適です。また、将来的に空き家を売却する場合にも、土葺き屋根ではなく安全な軽量屋根に葺き替えられていることは、付加価値となります。
<部分修繕>
費用を抑えたい場合や、当面の倒壊リスクを避けたい場合は、部分修繕でも対応可能です。瓦のズレ直しや漆喰補修を行うだけでも、当面は雨漏りや瓦の落下を防げます。
ただし、根本的な解決にはなりません。一部を修繕できたとしても、他の部分も経年劣化している可能性が高いからです。部分修繕は、あくまで一時的な対策と考えるべきです。
葺き替え・修繕にかかる費用の目安
「土葺き屋根は葺き替えや部分修繕が大切であるとわかったけど、どのくらい費用がかかるの?」と疑問に思われるでしょう。そこで、一般的な費用の目安をご紹介します。
土葺き屋根から軽量屋根への葺き替え工事は、30坪程度で150万〜250万円前後です。この費用には、足場代、瓦と土の撤去・処分費用、下地補修費用、新しい屋根材と施工費用などが含まれます。
一方、部分修繕であれば、数万円〜35万円前後に収まります。
「今、何も問題がないのに、点検や工事にこんなにお金がかかるなんて高すぎる」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、土葺き屋根の修繕は、放置すればするほど高額になることを認識しておく必要があります。雨漏りで下地や柱が腐ってしまうと、屋根だけでなく構造全体の補修が必要になり、数百万円規模に膨らむことも考えられます。
「早めの対策が結果的に費用を抑えることにつながる」と覚えておきましょう。
補助金・助成制度を活用できる場合も
お伝えしたように、土葺き屋根の葺き替えにはまとまった費用がかかります。そんなときに活用したいのが、自治体の補助金制度です。自治体ごとに、耐震改修や空き家対策の補助金が設けられています。
たとえば、長崎市で設けられているのが「木造戸建住宅の耐震改修の助成制度」です。この制度では、「耐震診断支援事業」や「耐震化総合支援事業(改修工事・現地建替)」があります。
「耐震診断支援事業」では、耐震診断費136,000円のうち、113,000円が助成され、自己負担額が23,000円で済みます。なんと80%以上を助成してもらえるのです。
ただし、以下のようないくつかの要件を満たさなければなりません。
<耐震診断支援事業の対象となる木造戸建住宅(一部抜粋)>
- 旧基準木造住宅(昭和56年5月31日以前に着工したもの)もしくは昭和56年12月末日までに、固定資産税課税台帳に記載されているなど、別途定められた基準に当てはまること
- 階数が3以下のもの
- 在来軸組工法、伝統的工法または枠組壁工法により建築されたもの
- 平成12年の建築基準法改正以降に増築をしていないもの
- 所有者か所有者の二親等以内の親族が、現在もしくは工事後30日以内に居住するもの
「耐震化総合支援事業(改修工事・現地建替)」では、工事費の80%が助成されます。上限は100万円です。これは、耐震基準に適合させるための耐震改修計画と耐震改修工事の費用の一部が助成されるもので、土葺き屋根も対象になるケースがあります。
しかし、やはり「耐震化総合支援事業(改修工事・現地建替)」にも、工事を実施する業者の所在地や建設業の許可などに関して細かい条件が設けられています。気になる方は、長崎市のホームページで詳細をご確認ください。
このように、各補助金は制度が複雑です。そのため、土葺き屋根の空き家を所有しており、葺き替えを行いたい方は、お住いの自治体の空き家相談窓口に相談するのがおすすめです。
また、ほとんどの補助制度では、工事開始前の事前申請が必要です。工事を始めてしまった後では申請できないため、注意しましょう。
参考:長崎市「耐震改修の助成制度(木造戸建住宅)」
まとめ
かつて施行されていた土葺き屋根は、断熱性・防音性に優れる一方で、重さがあり耐震性が低いという大きな問題を抱えています。
土葺き屋根は放置すると、地震による倒壊、雨漏り・腐朽、害虫・カビ被害、近隣被害に直結します。特に空き家の場合は、問題の予兆に気づきにくいため、より一層注意しなければなりません。
これらのリスクを回避するためには、所有者が責任を持って対応することが大切です。「今、問題ないから大丈夫」と思い込まずに、定期的に点検を行い、葺き替えや部分修繕を行いましょう。抜本的に改善するためには、軽量屋根への葺き替え工事が必要です。早めに修繕することで費用を抑えられ、気持ちとしても安心することができます。
葺き替え費用は決して安くはありませんが、自治体の助成制度を活用すれば費用負担を軽減できます。これらの制度を活用しながら、空き家を安全に保てるよう管理していくことが重要です。
土葺き屋根の空き家を所有している方は、まずはご自身での目視確認や自治体への相談から始めていきましょう。