「所有者不明の空き家」が復興を妨げる

2024年の能登半島地震から、1年半が経とうとしています。被災地では倒壊した建物の撤去が進む一方、「所有者不明の空き家」が復興の大きな障害となっていることが報じられました。
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被災118棟「所有者不明」で解体進まず…能登半島地震から1年半、新制度活用いまだ3棟(読売新聞オンライン)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20250629-OYT1T50012/
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石川県能登地方の6市町で、確認されている所有者不明の被災家屋は少なくとも118棟(2025年6月27日時点)。今後の調査により、この数字はさらに増える見通しです。
空き家の再生・流通を専門に扱う不動産業者として、報じられた被災地の現状は、空き家の放置がいかに深刻な課題であるかを改めて考えさせられる出来事でした。
今回は、このニュースを通して、所有者不明の空き家が発生する背景や、空き家を減らすために私たちができることについてお伝えしたいと思います。
「所有者不明建物管理制度」が本格稼働も、実績はわずか
記事によると、能登半島の珠洲市では、公費解体が進んで更地が目立ち始めた一方、倒壊した空き家がいまだに放置されている様子が報告されています。
例えば、ある空き家は10年以上前に住人が亡くなり、その後所有者不明のまま放置されていました。今回の地震で建物が崩れ、危険な状態であるにも関わらず、所有者が特定できないために手が付けられない状態になっているそうです。
このように持ち主の分からない空き家に対応するため、2023年4月に施行されたのが「所有者不明建物管理制度」です。
家屋の解体は原則、所有者本人の申請が必須である中、この制度は、所有者やその所在が不明で適切な管理がされていない建物について、自治体や近隣の土地の所有者などが裁判所に申し立てることで、管理人を選任し解体等の手続きを進められます。被災地においては、能登半島地震で初めて本格的に活用されるようになりました。
前述の珠洲市の空き家でも「倒壊した空き家が放置されていると、復興作業に影響が出る。治安や景観も悪くなる」として、地域の方たちが協力して空き家の調査を行い、迅速な解体を市に要望しました。
しかし実際には、災害という非常時にこの制度を使って手続きを進めるには、あまりに手間と時間がかかりすぎるという問題があります。
例えば、制度を利用するには、住民票の追跡や課税記録の照会などが必要となります。しかし所有者不明の空き家は、登記簿を確認しても、故人の名義のまま、さらに何代も前の所有者の名義であるといったケースがほとんどで、その作業も一筋縄ではいかないのです。
さらに「所有者不明建物管理制度」がまだ周知されていないことや、人手不足といった問題もあり、実際に制度により解体が進められたのはごく一部に過ぎません。記事でも申し立て34件に対し、公費解体が完了した所有者不明建物は、輪島市2棟、珠洲市1棟の計3棟にとどまっているとあります。
所有者不明空き家の背景にある「相続放置」
空き家が「所有者不明」になる主な原因は、相続手続きが未完了のままとなっていることです。こうした「相続放置」対策として、2024年4月から相続登記の義務化が始まりました。
これにより、相続で不動産を取得した人は、相続を知ってから3年以内の登記申請が法律で義務付けられ、正当な理由がなく怠れば10万円以下の過料(罰金)が科されることになりました。遺産分割が未確定でも、法定相続による登記(仮の登記)が必要です。
これまでは特に罰則がなかったため「放置していても大丈夫」と考える人も多かったと思います。それが「知らなかった」では済まされない時代へと変わりつつあるのです。
とはいえ今もなお、私たちが相談を受ける中でも、所有者が亡くなった後「相続人が多くて手続きが進まない」「話がまとまらず放置されている」といったケースはよくあります。その中でよく耳にするのが「もっと早くみんなで話し合っておくべきでした」「専門家に相談すればよかった」という後悔の声です。
空き家が放置される原因は、相続に限らず、所有者の高齢化や健康上の問題、家族構成の変化などがあります。本来はそうするつもりはなくても、結果として空き家となり放置されてしまった。そんなケースも少なくありません。
そしてこれらは、誰にでも起こりうる出来事です。
実際に「この家で暮らすのがしんどくなってきた」「実家をどうしたらいいかわからない」というご相談も多く寄せられています。
それに相続の話題は「亡くなったときの話」や「お金の話」にもつながるため、家族にはなかなか切り出しづらいと感じる方もいらっしゃいます。
ですが、家族が暮らしてきた大切な家だからこそ、きちんと向き合っておくことが重要であり、それが引き継ぐ方への思いやりにつながるのです。
空き家を減らすために、私たちにできること
総務省の2023年調査によると、全国には約900万戸の空き家が存在し、そのうち「放置空き家」は385万戸(https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/tyousake.html)にも上ります。このような空き家は、災害時の復興を妨げるだけでなく、治安や景観に悪影響を及ぼし、地域の価値を損なう要因にもなっています。
私たちは長崎市を拠点に、これまで多くの空き家再生に取り組んできました。そして今後は、長崎から全国に向けて、空き家を減らす取り組みを広げていきたいと考えています。
そのために、私たちにできることの一つが、現場の情報をわかりやすく発信することです。
ブログや書籍を通じて、空き家管理の重要性や、相続放置を未然に防ぐ方法、そして資産として家を守り、活かす具体的な取り組みをお届けしています。
一見するとボロボロの古い空き家でも、リフォームによって生まれ変わり、新しい暮らしの場となる事例も少なくありません。そうした事実を知ることで、「今まで住んできた家をきちんと次の世代に受け継いでいこう」という意識を持つ人が、一人でも増えたら嬉しく思います。
私たちが長崎で携わってきた空き家再生の知見が、同じように悩まれている全国の皆さまの一助となれば幸いです。
まとめ
能登半島地震をきっかけに、所有者不明の空き家が災害復興の妨げになっているという深刻な現実が明らかになりました。国や自治体の制度や支援は整いつつありますが、現場での対応にはまだまだ課題が残されています。
空き家問題は、家を持つ人には誰にでも起こりうる身近なテーマです。
「もしもの時、この家どうしよう?」「家を相続したけれど、どうしたいいの?」と少しでも気になったら、ぜひ、気軽にご相談ください。