長崎の空き家再生で、これからDIY大家がやりづらくなる!?木造戸建のリフォーム工事に確認申請が必要に。

空き家活用が年々進み、個人によるDIY再生や戸建賃貸への転用が広がってきました。 しかし2025年4月に建築基準法が改正され、これまで気軽に行えていた木造戸建のリフォーム工事に、建築確認申請が必要となりました。
今回の改正で、木造戸建のリフォームにはより安全性が求められることになります。長崎の空き家再生においても、建築基準法の改正が大家や投資家の方に与える影響は大きいでしょう。
さらに先日、長崎市内で空き家の老朽化による事故が発生し、空き家の安全性の重要さを痛感しています。
この記事では、建築基準法の基本と改正の具体的な内容、空き家再生に与える影響について詳しく解説します。
建築基準法・建築確認申請とは?
「建築基準法」は、建築物の新築、増築、改築にあたって遵守するべき最低基準を定めている法律です。建築物の安全性確保を目的とする「単体規定」、健全なまちづくりを目指す「集団規定」、そして「建築基準関係規定」が決められています。
建築物の新築、増築、改築、移転、大規模の修繕、大規模の模様替えをする際は、行政もしくは指定検査機関に「建築確認申請」を提出し、確認済証という書面が交付されてから着工しなければなりません。建築確認申請は、着工しようとしている建築物が建築基準法に適合しているかどうかを図面などからチェックするものです。
建築確認では、各規定において、具体的に以下のような項目が確認されます。
<単体規定>
- 敷地、一般構造・設備(衛生・安全の確保)
- 構造(地震などによる倒壊の防止)
- 防火・避難(火災からの人命確保)
<集団規定>
- 接道(避難・消防などの経路確保)
- 用途(土地利用の混乱防止)
- 形態(市街地の環境維持)
<建築基準関係規定>
下記のうち、敷地、構造、建築設備にかかわるもの
- バリアフリー法
- 消防法
- 都市計画法 など
建築工事が完了したら完了検査を受け、問題なければ検査済証が交付されます。検査済証が交付されたら、建物の使用を開始できます。なお、一部の建築物では工事途中の中間検査も必要です。
2025年4月の建築基準法改正の内容
2025年4月から、建築基準法の改正が施行されました。今回は木造戸建リフォームにかかわる内容に絞って、この法改正のポイントを整理します。
建築基準法では、もともと4号特例と呼ばれる特例が定められていました。4号特例は、4号建築物に分類される一定規模以下の木造建築物について、建築士が設計を担う場合、建築確認申請時の審査が簡素化される特例措置です。4号建築物とは、以下の条件に当てはまるものです。
- 4号建築物:木造2階建て以下で延べ面積500平方メートル以下、高さ13メートル以下、軒高9メートル以下の建築物
4号特例においては、都市計画区域・準都市計画区域などの区域外では、建築確認が不要とされていました。区域内であっても、「確認申請書・図書」の提出のみで良いものとされ、「構造関係規定等の図書」「省エネ関連の図書」の提出が省略されてきました。
つまり4号特例により、木造戸建てリフォーム工事では建築確認申請そのものが不要となるケースが多く、DIY大家が取り組みやすい環境が整っていたのです。
しかし、2025年4月の建築基準法改正で4号特例が見直され、建築確認が必要な建築物の範囲が広くなりました。
まず、4号建築物の区分が廃止され、新2号建築物と新3号建築物に振り分けられました。それぞれの分類は以下のとおりです。
- 新2号建築物:木造二階建てまたは木造平屋建てかつ延床面積200平方メートル超の建築物
- 新3号建築物:木造平屋建てかつ延床面積200平方メートル以下の建築物
改正後は、都市計画区域・準都市計画区域などの区域内外にかかわらず、新2号建築物は建築確認の対象となりました。新3号建築物は、都市計画区域・準都市計画区域などの区域外においては建築確認が不要、区域内においては審査が一部簡略化されます。
すなわち、「都市計画区域・準都市計画区域などの区域外にある木造平屋建てかつ延床面積200平方メートル以下の建築物」以外のすべての木造戸建が、確認申請の対象となりました。確認申請の不要だった多くの木造戸建が新2号建築物や新3号建築物に区分され、リフォームを行う際に建築確認申請が必要になったのです。
これまでは、たとえば空き家の壁を壊して間取りを変更したり、増築したりといったDIYが自己責任の範囲で行われてきました。しかし今後は、DIYの自由度が制限されることになります。
4号特例見直しの背景
建築基準法における4号特例が見直された背景には、2022年6月に公布された「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」があります。
この法律により、住宅を含むすべての建築物において、省エネ基準へ適合させることが義務付けられたのです。
建築確認が必要なリフォームの内容は?
2階建の木造戸建の改築、大規模の修繕、大規模の模様替えなどをする際は、建築確認が必要であるとお伝えしました。
軽微なリフォームであれば建築確認は求められません。建築確認が必要なのは、大規模なリフォームです。
大規模なリフォームとは、「建築基準法の大規模の修繕・模様替えにあたるもので、建築物の主要構造部(壁、柱、床、はり、屋根または階段)の一種以上について行う過半改修等」です。
簡単にいうと、壁、柱、床、はり、屋根、階段のどれか1つもしくはいくつかを、半分以上改修するのであれば建築確認が必要だということです。たとえば、以下のような工事が該当します。
<建築確認が必要なリフォーム>
- 建物の壁の半分以上を取り替える工事
- 床の構造材の半分以上を修繕する工事
- 屋根を全体的に取り替える工事
- 階段を架け替える工事
一方で、下記の工事であれば建築確認は不要です。
<建築確認が不要なリフォーム>
- 屋根や壁の仕上げ材のみの工事
- キッチンやトイレ、浴室などの水回りのリフォーム
- バリアフリー化のための手すりやスロープの設置工事
なお、延べ面積が100平方メートルを超える建築物の大規模なリフォームを行う場合、建築士が設計・工事監理する必要があります。
参考:国土交通省「建築関係法の概要」
参考:国土交通省「建築基準法・建築物省エネ法 改正法制度説明資料」
参考:国土交通省「2025年4月(予定)から4号特例が変わります」
参考:国土交通省「木造戸建の大規模なリフォームに関する建築確認手続について【令和7年1月14日時点】」
長崎の空き家再生への具体的影響
建築基準法の改正は、長崎の空き家再生にも影響します。
<手続きの複雑化>
従来であれば建築確認が不要であった木造戸建において、建築確認をしなければならないケースが増えました。専門家への相談や、建築の専門知識が必要になり、手続きが複雑になりました。
<工事期間の延長>
建築確認申請には審査期間があり、7日程度〜最大35日の期間を要します。工事完了後には完了検査が実施されるため、工事期間が長くなると考えられます。
<コストの増加>
建築確認には、コストも必要です。建築確認の申請手数料、中間検査の手数料、完了検査の手数料がかかります。建築士へ設計監理を依頼すれば、さらに費用が膨れ上がります。
<技術的要件の厳格化>
確認申請が必要となることで、建築基準法への適合が厳密に審査されます。これまで見過ごされていた不適格部分の改修や、現行基準への適合が求められる可能性が高くなるでしょう。
長崎市内でのアパート事故が示す安全性の重要さ
2025年7月、長崎市愛宕2丁目で老朽化した空き家アパートの外階段が崩落し、1人が死亡する事故が起きました。
アパートは2階建ての空き家で、所有者が不動産関係者とともに外階段をのぼった際、立っていた踊り場が崩落したそうです。2人は約4メートルの高さから転落したとのことです。
この事故は、空き家の管理とリフォームにおいて、安全性の確保がいかに重要であるかを示しています。DIY大家が自分で行った工事の安全性が不十分であった場合、重大な事故につながる可能性があることを深刻に受け止めなければなりません。
建設業許可を持つ専門業者への依頼の重要性
この事故を受けて、建設業許可を持つ専門業者への依頼の重要性を改めて強調したいと思います。
建設業許可は、建設業を営む事業者が、一定規模以上の建設工事を請け負う際に取得しなければならないものです。一定規模以上の建設工事を適正に施工できると認められた業者に与えられます。建設業許可を取得するためには、以下の要件を満たさなければなりません。
- 経営業務の管理責任者の設置
- 専任技術者の配置
- 財産的基礎の確保
- 適正な社会保険の加入
建設業許可を持つ業者は、専任技術者を配置し、継続的な技術研修を実施しています。最新の建築基準法や施工技術に関する知識を持っているため、適切な工事を行うことができます。さらに、瑕疵担保保険などに加入しており、万が一の事故や施工不良が起きた場合の保証体制が整っています。
すなわち、建設業許可の取得業者にリフォームを依頼すれば、建物の安全性が高まるということです。
DIY工事のリスク
反対に、DIY大家が自分で工事を行うことには以下のようなリスクが存在します。
<構造安全性の判断不足>
建物の構造に関わる工事は、専門的な知識と経験が必要です。特に主要構造部の改修を行う場合、適切な構造計算や施工方法を選択しなければ、建物の安全性を著しく損なう恐れがあります。
<建築基準法違反>
建築基準法は複雑かつ頻繁に改正されており、素人が正確に理解し適用することは困難です。違反工事を行った場合、是正命令や使用禁止命令を受ける可能性があります。
<入居者の安全確保への責任>
賃貸物件を運営する大家は、入居者の安全を確保しなければなりません。DIY工事により建物の安全性が損なわれ入居者が怪我をした場合、民事・刑事責任を問われます。
まとめ
2025年4月の建築基準法改正により、長崎市内の空き家再生事業は大きな転換点を迎えています。4号特例の縮小により、これまでDIY大家が気軽に行えていた木造戸建て住宅の大規模リフォームにおいて、建築確認申請が必要となるケースが増加しました。
一見すると、大家や投資家の方にとって負担が重くなるように感じられるかもしれません。しかし、長崎市内で発生したアパート階段崩落事故が示すように、建物の安全性確保は最優先事項です。建築基準法の改正は、安全で質の高い空き家再生を促進する重要な改正といえます。
空き家再生においては、建設業許可を持つ専門業者へ依頼することが大切です。適切な技術と経験を持つ業者にリフォームを依頼することで、入居者の安全を確保できます。
長崎の空き家再生を行う弊社も建築基準法改正を機に、より一層安全・安心な戸建の提供を目指したいと考えています。