相手との適度な距離感が、いい人間関係をつくるコツ

会社やプライベートなどいつも人間関係に恵まれている私ですが、人間関係を築くうえで「距離感」をとても大事にしています。それは学生時代のある経験がきっかけになっているのかもしれません。今日は昔のエピソードをご紹介させてください。
私は幼い頃から社交的な性格で、自分の得になる話は喜んで受け入れるようなタイプでした。成長し、私が中学生になった頃です。髪の毛を切りに行こうと近所の行きつけだった床屋さんに行ったのです。小学生の頃から通っており、店員さんとも顔なじみでした。
その床屋には、気さくなお兄さんがいて何でもよく話していたのですが、中学になり私がサッカー部に入ってサッカーしているということを知ると、自分もフットサルを始めたと話してくれました。そこから何度か一緒にプレーするようになったのです。また、いつも営業時間外にカットをしてくれるなど、寄り添ってくれるような優しさがありました。
「いつも遅くにすみません」というと
「いいよ、いいよ。部活で忙しいし、大変だろうから」と快くカットをしてくれたのです。さらに「時間外だから、今日は1000円だけちょうだい」と破格の値段を提示されました。通常は3000円なのに……と申し訳ない気持ちもあったのですが、中学生にとって1000円はありがたい金額でもありました。私は「ありがとうございます」と好意に甘えさせてもらったのです。「その代わり、またフットサルに来てね!」と言われ、「行きます、行きます」と答えていました。
その後高校生になってからも、関係は続きました。床屋さんのフットサルチームにも参加していたので、私自身も「仲が良い」親しい間柄なんだと勝手に思っていたのです。
しかし、関係を続けていた高校2年生のある日、事件は起きました。
その頃は個人的な連絡先も知っていたので、「◯月◯日、切りに行っていいですか?」とやり取りをして、当日を迎えたのです。
髪を切ってもらった後、「今日は3000円もらっていい?」と言われたのです。しかも相手は明らかにイライラした様子でした。
「今日に限ってどうしたんだろう?」と思いながらも支払いを済ませたのです。
しかし、話はそれだけでは終わりませんでした。帰宅後、「いつも当たり前のように1000円だと思ってるんだろうけど、どう思ってんの?」と強い感じで連絡がきたのです。そのとき私は初めて、「自分にこんな怒りが向けられている」ことを知りました。
「1000円で切ってもらえる」ことが常態化してしまった私は、相手がそんな風に思っているなんて思いもしなかったのです。たしかに2人の間では「フットサルに来るなら1000円でいいよ」というような暗黙のルールがあり、高校になってからは部活が忙しくなかなか参加できていませんでした。
きっと彼は「フットサルにも来ないのに、なんでこの子にタダ同然で切っているんだろう」と思ったのでしょう。
私は謝罪し、いつもありがたいと思っていること、またこちらも好意に甘えてしまったことを謝罪しました。しかし、それから彼から返信はありませんでした。
もともと私は、「無理なことは無理」と言うようなはっきりしたタイプで、まさか相手がそんな不満をためているなんて思いもよりませんでした。
しかし、この1件で、世の中には不満を隠して我慢しながら付き合っている人がいることを知ったのです。と同時に、相手との距離感があまりに近いのも、お互いにとっていい結果を生まないことも学びました。振り返ってみると、お客と美容師という距離感ではない、「近さ」があったからです。
この出来事以来、私はその床屋さんには行かなくなってしまいました。幼い頃から通っていた床屋さんだったので、寂しさもありましたし、あとから「もっとあの時自分ができたことがあるのではないか」という思いも湧き上がりました。
例えば、フットサルにきちんと参加する、営業時間内に行く、また感謝の気持ちをもっと言葉で伝えるなど、高校生ながらできることがあったはずなのです。しかし、それを私はせずに関係を絶たれてしまいました。何より、いつもニコニコ笑顔で迎えた人から、あのように怒られたことが、高校生の自分にとっては大きなショックでした。
この経験から、お金が絡む人間関係には特に注意するようになりました。人にサービスをしてもらっても、それを継続させないこと。また、会食や飲み会があっても、年上の人に奢ってもらい続けないようにすること。
さらに、友達に仕事を依頼する際、金額面では細心の注意を払うようになりました。どうしても相手は「友達だからサービスしてあげよう」という気持ちを持ってくれますが、それに甘えるのではなく、本来の金額はもちろんですが、相手の意図や思いを丁寧に汲み取ることを心がけています。
床屋さんとの関係は終わってしまいましたが、あの出来事は今も私の中で大きな教訓です。友人に仕事を頼む時、金銭のやり取りがある時はもちろん、人間関係において「相手との距離感」を重要視しています。それと同時に常に相手の立場に立って、感謝を言葉にすることも強く意識しています。
それができているからか、今は関係者のみなさんとはいい関係を築けていると感じます。信頼が壊れるのは一瞬です。これからも細かなことに気を配り、周りのみなさんと信頼を築いていきたいと思っています。