空き家

自分の事業と生き方に幅を持たせてくれた、忘れられない先輩

空き家再生事業を始めて、2年が過ぎました。よく「大光明さんは、不動産のお仕事をされて長いのですか?」と聞かれますが、実はそうではありません。
もともと建築は好きで大学は建築学科を専攻し、「いつか自分の設計で家を建てたい」と設計事務所にインターンで入るも、当時は労働環境が非常に悪く断念。結局、新卒で入社した大手広告代理店に勤めていました。しかしそこで、再び不動産の世界に興味を持つようになります。大きなきっかけとなったのは、広告代理店の先輩Aさんでした。今回は、このAさんに出会ったことで私に起こった変化についてお話ししたいと思います。

 

「借りた家を貸せるんだ!」という新たな発見

当時Aさんは私より5~6歳上の営業担当。某おもちゃメーカーの展示会の仕事で同じチームになり、親しくなったのです。

私は入社3年目、今の仕事を続けるか、転職をするか、はたまた起業をするか、この先のキャリアパスに悩んでいる時期でした。
そんなとき、Aさんが荒川区に古い家をDIYでリフォームし、シェアハウスとして運営しているという話を聞きました。制作部の同期社員などにも依頼してリフォームを行なっていたとのこと。「そうだったんですか、知らなかったです!」と驚くと、「今度見に来なよ」と誘ってくれたのです。
実際の物件はとても立派で、DIYでリフォームしたとは思えないほどのおしゃれな仕上がりでした。23区内でこれだけの物件を購入したらさぞかし高いのだろうな……と思っていると、Aさんから「これは5万円で借りた物件を、さらに貸しているんだよ」と聞き、衝撃を受けました。

その物件は「転貸借(てんたいしゃく)」と言って、賃貸借契約で物件を借りている借主が、さらに第三者に貸し出すという方法が取られていたのです。分かりやすくいうと「又貸し」や「サブリース」のようなものですね。Aさんは大家さんから1棟5万円で借りて、5部屋をシェアハウスとして貸し出し、1部屋あたり4万円の家賃を得ていたのです。

今や都内には数多くのシェアハウスがありますが、当時はまだまだ黎明期。そんな中でAさんはいろいろなシェアハウスを手掛け、全国から入居者が殺到して順番待ちになるほど人気を博したのです。「こんなやり方もあるのか……!」ととても驚きました。

 

ビジネスは自由な発想で楽しみながらできる! という気づき

それからというもの、Aさんから「大光明くん、手伝いに来てよ」と声をかけていただき、物件のリフォームのサポートなどに行くことが増え、いろいろな話をするようになりました。

多忙な広告代理店営業の仕事をしながら、シェアハウス経営もこなすAさん。シェアハウスの実質の管理は住人の代表者に任せ、自分はリモートでコミュニケーションを取ることで経営にそれほど工数を取られない体制を作っていました。話を聞けば聞くほど、Aさんのパワフルさや、事業のブランディングをしっかり構築し、なおかつきちんと収入を得られる仕組みづくりのすごさを感じたものです。

Aさんが作ったツリーハウスも、実に面白いアイデアでした。名前のごとく、ツリーハウスとは木の上に建てる家のことですが、そこを仲間たちと一緒にカフェや宿泊施設にDIYして貸し出すのです。木の上で土地ではないですから、必要な経費は木の使用料のみ。元手の賃料が低いので、とても収益性が高いのだそうです。木の上は景色もいいですし、自然の風が心地よく居心地も抜群でしょう。Aさんが手掛けたツリーハウスのカフェは大人気で、今は閉店しましたが10年近く営業を続けていました。現在では、古いバスを改造して美しい景色を臨むバーを経営するなど、斬新なアイデアでビジネスを楽しんでいるようです。

「不動産でこんな面白いことができるんだ!」
「自分のやりたいことを実現するには、会社で給与をもらっているだけじゃダメなんだ!」
「ビジネスには多様な方向性、可能性があるんだ!」

Aさんからは、ものづくりに携わる者の視点、経営者の視点でもさまざまなことを学び、たくさんの刺激を受けました。

「常識にとらわれない」ことで新たなアイデアが生まれる!

私はもともと理系人間で、何事も数学のように答えが出ることが好きでした。しかしAさんとの出会いを通じて、答えは必ずしも1つではないこと。解釈によって多様な答えがあることを知りました。
広告代理店での仕事をしていたとき、あの東日本大震災も経験。
「世の中、いつ何が起こるかわからない。大手企業だって一気に傾くこともある。自分の常識にとらわれないで、もっと自由でいいんだ」そう思えたことで、一気に視野が広がり、今の自分があります。
ちなみに私が在籍していた広告代理店にはAさんのように、私の人生や仕事、価値観に影響を与えてくださった方がたくさんいました。
イベントを企画する中で、日々いろいろなアイデアが飛び交い、それを実現して形にすることを楽しむ人たちがいる。限定的な仕事は何1つありませんでした。そんな環境が、多くの面白い人たちを引き寄せていたのかもしれません。あらためて、よい会社に入ってよい人たちに出会え、よい経験をさせてもらえたなと感じています。

空き家も1つとして同じ物件はありません。「これはどうすれば再生できるだろう」といつでも柔軟な思考、アイデアが求められます。これまでの経験や出会いは、確実に今の空き家再生事業にも活きているなと実感しています。あのときの経験を1つも無駄にしない。その思いで私は今日も空き家と向き合い続けています。