揺れる夢と現実の中で見つけた、自分らしい未来

振り返ってみると、私が今こうして経営をしているのも、学生時代のさまざまな経験が起因していると感じています。そこで今回は大学生の頃の体験をご紹介しながら、私が大切にしている「価値観」についてお伝えしたいと思います。
「自分の道は建築関係にはない」と感じたインターンシップでの日々
高校卒業後、建築学科に進学した私。大学生になってからもその思いを持ち続けていました。進路のことを考え出した大学2年生のとき、建築家を目指し設計事務所のインターンシップに参加しました。
「憧れの設計事務所で、東大や有名私大出身の先輩たちに囲まれながら、設計の技術を学ぶんだ! そしていつかは自分も……!」期待に胸を膨らませながら働くことになったのです。しかし、そこで待っていたのは予想を裏切る過酷な労働環境でした。
先輩たちは、一般的なアルバイト代にも満たない少ない賃金をもらいながら長時間労働をしていたのです。憧れと現実との激しいギャップに私は衝撃を受けたのを覚えています。
一度、先輩たちに「その給料で納得しているのか」とやんわりと聞いたことがありました。すると、「有名な先生のもとで働けている。これは何にも代えがたい“経験”を得られている」そう答えてくれたのです。おっしゃるようにそうしたモチベーションがあるからこそ、こうした賃金でも働いているのだと理解はできました。しかし、自分はこの待遇に「納得」はできませんでした。
たしかに経験や「有名な設計事務所で働いた」という経験はプライスレスで、その「看板」は建築家として必要なものかもしれません。しかし、一人前になるまでは満足いく収入は得られない……。もちろん、お金がすべてではありません。しかし私は仕事だけではなく、結婚して子どもを持つという生活もまた自分の「夢」でした。これでは結婚も子どもを持つことも難しいのではないか。そう思い私は、建築家の道をあきらめ、方向転換したのです。
しかし、人生というのはわからないもので、結局今、私は空き家事業で、リフォームを行う際に住宅の設計をする、そんな仕事に落ち着きました。
私がこれまで培ってきた建築の知識、広告代理店で得た装飾やカラーコーディネートの知識、そして不動産業界で得た法律知識や販売手法などがすべて活かされている。それはあのとき、設計事務所で見た現実から、自分の価値観を客観的に見つめ、「設計に進まなかったから」と言えるでしょう。
自分の価値観を信じたこと。そして「設計で食べていく」ことに固執せず、変化に対応してきたことが、私にとってはプラスにはたらきました。きっとそれは、本記事を読んでくださっているみなさんも同じなのではないでしょうか。
すなわち、仕事以外で自分が大事にしたいコトに目を向ける。そしてそれを理解したうえで、「置かれた環境で全力を尽くす」「結果、経験とスキルを得る」そうやって武器を増やしていくことが、人生をうまく泳いでいくポイントだと感じています。
自己分析でつかんだ、自分の資質を「活かせる」道
さて、少し話は戻りますが方向転換した私は、就職活動では100社以上の企業をリサーチし、「自分の特性を活かせる企業」をピックアップしました。リサーチと面接を繰り返すことで、
私は「就活は単なる会社選びではなく、自己分析の絶好の機会なんだ」と実感したのです。実際、面接を重ねるごとに「この会社の人たちとなら一緒に働けそうだ」とか「ここは自分に合わないかもしれない」といった感覚が研ぎ澄まされていきました。
そこで出したのが「クリエイティブなものづくりをしたい」という答えでした。ただし、それは単に物を作るということではありません。「人々に喜んでもらえるようなものづくりをしたい。それも1つの商品だけでなく、さまざまな商品に関わりたい」と漠然と思ったのです。
そんな私の目には、総合商社のような多様な分野に関わる企業が魅力的に映りました。一つの枠にとらわれず、様々な経験ができる環境で、自分のやりたいことを見つけられるのではないかと考えたのです。
ベンチャー企業にも興味を持ち、いくつかの内定をいただきましたが、最終的には憧れの広告代理店の会社に入社することができました。1万5,000人もの応募者の中から選ばれた喜びは今でも鮮明に覚えています。
就活を通じて私は、「自己分析で自分の特性と特徴を知ることで自分の進むべきキャリアが見えてくる」ことを知りました。そしてその経験は私の大事な「価値観」となり、自分のアイデンティとなっているのです。
まとめ
若い方たちから「自分の進みたいキャリアが見つからない」という相談を受けることがあります。そんなとき私は、「まずはとことん自己分析をしてみるといいよ」と答えています。それは自分一人ではなかなかできません。私のようにインターンシップの体験や、多様な業務を通して初めて見えてくるものでもあります。「まずはやってみる」そこから自分の道を考える。回り道のようでいて、実はそれが一番近道だと感じています。