空き家

投資家の力を借りず、身の丈に合った経営がもたらすもの

2022年に会社を立ち上げてから、しばしば「大光明さんは、投資家からの投資を受ける予定はないんですか?」と聞かれることがあります。事業を進める上で「投資を受けるか否か」という選択は、経営者にとって非常に大きなテーマです。実際、私の知り合いの経営者でも、資金調達に成功しその資金を元手にビジネスをどんどん拡大している人がいます。そうした経営判断を素晴らしいと思う一方で私は、「資金調達を受けずに経営していこう」という思いを新たにしています。

 なぜなら「経営者の純粋なビジョンを揺るがす可能性がある」からです。

 

自分のビジョンより、投資家の意見が優先される可能性がある

 

例えば、1億円の資金調達に成功し、土地を購入して新たな事業を行うとしましょう。もちろん事業計画や実施までのプランは、投資家たちに確認してもらい、それを経て実行に移していくわけですが、何より「ストレス」となるのが、「〇年後には1億円返さなければいけない」あるいは、「〇年後には必ず■■という成果を出すこと」といういわば制約の中で事業を行っていくことになります。

たしかに、資金があれば経済的な安心感から事業に集中できるという側面はあります。しかし、事業はまさに「生き物」。例えばコロナショックなどの予測不可能な事態も起こるでしょう。そのときに、投資家の判断を仰いでから事業を行うというのでは事業のスピードも遅くなってしまいますし、何より「何のために事業を行っているのか」がわからなくなってしまうと思うのです。

 

「限られた資金の中では、できることも限られてしまうのでは?」という声があるかもしれません。それはもっともです。しかし、だからこそ「事業の伸びしろ」があるとも感じています。

ある経営者さんが昨今の採用市場を見てこんなことをおっしゃっていました。

「ユニクロが週給3日制、新卒に月給30万出すと言っている。高待遇はたしかに魅力があるが、人間、若いうちから“自分の給与や待遇のハードル”を上げてしまうと成長しにくい」

私もこの意見に同感です。「自分の身の丈の範囲内で事業を行う」それはスピードはゆっくりかもしれませんが、着実に事業拡大を目指していくことができます。事業の伸びしろがあることで、経営者としての「経営力」や「判断力」を養うことができるのではないかと考えているのです。

 

資金調達に成功しても、事業に失敗してしまうのでは意味がない

 

私の知り合いの経営者にこんな人がいます。

その方は、○○関連の事業で起業し1億円の資金調達に成功しました。前途洋々かと思われた矢先、1年間、思ったように会社の売り上げが上がらなかったのです。時折聞く話からは「売上が上がらないプレッシャーと、投資家からのプレッシャー、両方かかっていてきつい」という話をしていました。

さまざまな手を尽くしたものの、結果が出せず、結局投資を受けた会社に買収され、現在はその会社の部長として別の事業を任されています。私はその方が経営者だった時のことを知っているので、「この方は今の会社で部長をやっていることが、幸せなんだろうか」と疑問になってしまいます。も

もちろん、世の中には投資を受けて上場を果たすような企業もたくさんあります。しかしながらその一方で、その思いを果たせずに吸収されていく企業もあるのです。資金があれば当然、事業の取りうる選択肢も増えます。しかしその選択を間違ってしまうと、「ここで辞めよう」と思っても簡単には引き返せません。そうしたリスクもはらんでいると私は考えています。

 

長崎の地が、私のチャレンジを後押ししてくれた

 

私が長崎で事業をスタートできたのも、いわば「事業のハードルが低かったから」という面があります。空き家事業は仕入れコストが比較的低く抑えることができ、地道に利益を積み上げていくことができます。

たしかに都内で新築アパートの販売事業に携わってきた経験を活かして、首都圏で借入や投資を受けて事業をスタートすることも確かに可能でした。最初のインパクトや規模感もそれなりに大きくなっていたことでしょう。

しかし、それが身の丈を超えたものであれば、どこかで歪みが生じ、結果として自分が達成したかったことから外れてしまう可能性があります。

例えば、長崎の地を選び多額の資金を投入して不動産事業を行ったとして、それは真の意味で地域貢献といえるのでしょうか。むしろ、借金返済や投資家への説明責任に追われることになるかもしれません。それは私の本意ではありませんでした。

そういう意味で長崎の地で社会的意義のある「空き家事業」に携わることができたことは、幸いなことです。私にとっての「やりがい」であり、「使命だ」とも感じています。

 

長崎の空き家問題解決が、私の目指す道

 

今回は資金調達に絡んだお話をさせていただきましたが、私は決して、資金調達を受けることに対して否定的ではありません。むしろ、適切なパートナーからの支援は事業を大きく飛躍させる力となり、事業の成長を支える重要な役割となるはずです。

しかし、その資金が私の目指す方向性や価値観と合致していなければ、結果として事業の本質を見失ってしまいます。本質的な事業の目的と合致しない投資は経営者にとっても、そして地域社会にとっても、価値あるものにはならないと考えています。

 

私の事業の目的は、長崎の空き家問題を解決し地域を活性化させること。もし、未来において事業が大きく成長し、地域全体に貢献できる段階になれば、資金調達の道もあるかもしれません。資金調達をどのように活用し、どのように事業を進めていくか。「身の丈に合った経営する」という自分の信念を守りながら、長崎を拠点に地域に根ざした活動を続けていきたいと考えています。