【長崎の空き家活用術】知られざるアイデアと地域活性化の可能性
長崎市をはじめとする地方都市では、空き家問題が深刻化しています。人口減少や高齢化が進む中、空き家は地域の課題となる一方で、使い方次第では新たな価値を生み出す可能性を秘めています。この記事では、長崎の抱える空き家問題からその可能性や、空き家活用方法に焦点を当て、構造的な課題などを解消するような意外なアイデアや活用方法などの事例を紹介しながら詳しくお伝えします。
1.長崎で進む空き家問題とその可能性
長崎市の坂道を歩けば、ふとした瞬間に時間が止まったような住宅街に出会います。
木の雨戸が閉じたままの家、雑草が屋根の端を覆う玄関、誰もいない庭に揺れる洗濯ロープ。
それらはかつての暮らしの名残であり、同時に「空き家」という現実の象徴です。
総務省の住宅・土地統計調査によると、全国の空き家は2023年時点で約849万戸。
全国平均の空き家率は14%に対し、長崎県は**18.4%**と全国ワースト上位に位置します。
県内でも長崎市・佐世保市・諫早市の3都市で全体の6割以上を占め、
その多くが築40年以上の木造住宅です。
行政もこの問題を放置できず、長崎市は2022年度から「特定空家」認定を強化。
放置された空き家の所有者に対しては、固定資産税の優遇解除や行政代執行による解体費の請求が行われるケースも増えています。
つまり、「持っているだけでは損をする時代」に突入したのです。
しかし一方で、これらの家々は“地域の記憶”でもあります。
古い瓦、漆喰壁、坂の角度に合わせて建てられた玄関階段――。
長崎独特の地形と生活の知恵が詰まった建築が、今なお残っている。
空き家は「古い家」ではなく、「次の使い方を待っている建物」なのです。
コンパクトシティ・長崎の特徴
長崎市は、人口約40万人弱の中核都市。
しかし驚くべきことに、そのほとんどが中心部のわずかなエリアにぎゅっと集まっています。
東京や大阪のように周辺都市に人が分散しているわけではなく、
**“谷と坂に抱かれた街のなかに人も機能も凝縮している”**のが長崎の特徴です。
この「コンパクトシティ構造」が、空き家再生における大きな可能性を秘めています。
なぜなら、空き家が分散していても、それらがすべて“街の生活圏の中にある”からです。
通勤・通学・買い物・医療などの生活インフラが徒歩圏内に収まっており、
リノベーションをすれば、すぐに「暮らせる家」や「使える店舗」として活用できる。
たとえば同じ40万人規模の地方都市でも、
車社会が前提の都市では空き家の再生コストが高く、立地もバラバラで再利用が難しい。
一方の長崎は、コンパクトであるがゆえに再生効果が波及しやすく、
「一軒が変わると通りが変わる」構造を持っています。
これが、空き家活用が地域の再生と直結する理由なのです。
地震が少ない街、長崎
もう一つ見逃せないのが、長崎の地震リスクの低さです。
気象庁のデータによれば、長崎県は全国的に見ても有感地震の発生件数が少なく、
建物被害が出るような大地震はほとんど確認されていません。
たとえば関東や東海地域では、築30年以上の木造住宅は耐震補強が必須ですが、
長崎では地震の発生頻度が低いため、古い建物でも構造的なダメージが少ないケースが多いのです。
つまり、他県では“老朽住宅”として扱われる建物が、長崎では“再生可能資産”として残っている。
これは空き家再生において非常に大きなアドバンテージです。
構造躯体が健全であれば、改修コストを抑えて再生できる。
古民家や昭和期の住宅を活かしながら、
“地震が少ないからこそ安心して使える街”としてブランディングすることも可能です。
実際、長崎市中心部では築60年以上の木造住宅でも、
耐震補強を行わず内装リフォームのみで再利用できるケースが多く、
カフェやアトリエ、賃貸住宅などに転用される例が増えています。
2.意外な活用方法が生む新しい価値
オフィスやカフェなど、商業利用としての再生
空き家をリフォームして事業スペースにする動きは、今や全国的な潮流です。
「新築を建てるよりも、古いものを生かす方が魅力的」という価値観が広まり、
サステナブルなビジネスの象徴としても注目されています。
代表的な成功事例が神奈川県鎌倉市の「WITH Kamakura」(https://with-project.jp/)。
白川郷から移築した古民家を改修し、カフェ・ギャラリー・ワーキングスペース・結婚式会場として再生。
昼は観光客がカフェで憩い、夜は地元アーティストが展示会を開く。
「一棟の古民家が一日の中で何度も生まれ変わる」ような仕組みが生まれています。
長崎でも同様の流れが少しずつ広がっています。
中通り商店街や出島周辺では、築60年を超える店舗付き住宅をリノベーションして
アトリエ兼カフェとして活用する例が増え、若い世代の出店が相次いでいます。
古さを武器に、温かみと個性を両立させる商業空間が、人を呼び戻しているのです。
サウナ・民泊など、体験型施設への転用
長崎の観光資源を生かした再生事例も登場しています。
築20年以上の木造住宅を改装した「サウナ施設かめやま」(https://sauna-kameyama.com/)はその代表格。
長崎港を一望できる高台の立地を活かし、「夜景と整い」をテーマにした施設として人気を博しています。
運営者はこう話します。
「長崎に住む人が“非日常”を感じられる場所をつくりたかった」
彼らは単に古い家を直したのではなく、地域の景観をデザインの一部として取り込んだ。
その結果、地元客のリピート率が高く、観光より“地元の日常”として愛される場所になっています。
このような再生は、観光業の多様化にもつながります。
空き家を宿泊施設や小規模ゲストハウスに変える事例も増加しており、
「長崎らしい暮らしを体験する宿」として全国の旅行者を惹きつけています。
古民家カフェが生んだ文化的ムーブメント
長崎は、斜面地が多く、販売店などにリフォームした際は、商品の搬入搬出の大変さがついてきます。シンプルに空き家としての活用の難しさでもあります。そこまでしても会いたい、買いたいというわざわざ来ても得られるものがあるという特化したものがないとなかなか足を運ぶのが難しいことも。
長崎は、景色がよいという斜面地ならではの特徴を活かした評判のカフェがあります。TikTokにもアップした古民家カフェ耕美庵です。斜面地の特性と、古民家の世界観をフル活用し、隠れ家的で雰囲気のあるカフェで人気があります。
残念ながら現在は閉店していますが、耕美庵が残した影響は大きく、
「古い家を活かして自分の世界観を表現したい」という若い起業家が出始めています。
今では長崎市内だけでなく、諫早や大村でも“第二の耕美庵”を目指す動きが見られます。
耕美庵は、空き家再生を「経済活動」から「文化活動」へと昇華させた象徴と言えるでしょう。
住宅としての再生 ― “暮らせる空き家”の広がり
近年では、空き家を居住用住宅として再生・販売する動きも活発化しています。
一昔前までは「古い家=リスク」と見られていましたが、
今では「リノベ前提で安く購入して、自分好みに手を加えたい」という層が増えているのです。
特に注目されているのが、1,000万円未満の低価格住宅市場。
長崎市内や周辺地域でも、築40〜50年の戸建てをリフォームして販売する事例が増加しています。
水回り(キッチン・浴室・トイレ)を中心にリノベーションを施すことで、
「すぐに住める空き家」として需要が高まっています。
不動産の現場でも、
「水回りがきれいなら、家はすぐ決まる」
という言葉があるほど、リフォームの要は設備の清潔感にあります。
実際、当社でも水回りの入れ替えと内装補修のみで入居が決まった賃貸物件は多く、
家賃相場より1〜2万円高くても「即決でした」と言われるケースもあります。
つまり、少しの投資で「住みたい家」へと変えられるのが空き家再生の大きな魅力です。
また、投資目的でなく実需(自分で住む)層が増えていることも特徴です。
「中古でもいい、ローン負担を抑えて庭付きの家に住みたい」――
そんな声に応える形で、空き家の住宅活用が静かに広がっています。
長崎市では1,000万円以下のリノベ済み戸建てを探す若い世帯が増えており、
空き家再生が“暮らしの選択肢”として認知され始めています。
この動きがさらに進めば、「空き家=問題」から「空き家=チャンス」への転換が加速していくでしょう。
3.長崎が抱える構造的課題 ― 子どもは生まれているのに、戻ってこない街
長崎県の2023年の合計特殊出生率は1.49(全国平均1.26)と、全国でも上位に位置しています。
2024年の合計特殊出生率は1.39と減少になりましたが、まだまだ高い水準といえます。
実は「子どもが生まれていない県」ではなく、「生まれても定着しない県」なのです。
つまり、長崎は“人口を生み出す力”はあるのに、“育てる場所・働く場所”が足りない。
高校卒業後や大学進学を機に県外に出た若者の多くが、
「戻りたいけど仕事がない」「家がない」「住む場所の選択肢が少ない」と感じ、
そのまま福岡・熊本・関西・首都圏へと定着してしまう。
かつて造船業で栄えた長崎は、技術職中心の産業構造が長く続きました。
しかし時代とともに重工業からIT・サービス業へのシフトが進む中、
雇用の受け皿が都市部に集中。
結果的に、「子どもは生まれるのに若者がいない」 という、全国でも珍しい人口構成になっています。
裏を返すと、全国に移住されている長崎出身の方が、相対的に増えているということにもなります。
ある県外移住者はこう語ります。
「子どもが小学生になったとき、戻りたかった。でも、働ける場所も、住める家も見つからなかった。」
この声が象徴するのは、空き家問題は“住まい”だけの問題ではないという現実です。
家が余っているのに、住みたい人がいない。
このミスマッチを解消するには、
“戻ってこられる家”を残すこと――それが空き家再生の社会的使命だと言えます。
実際、移住促進の観点でも空き家の活用は重要です。
リノベ済み空き家を若い家族に貸し出す「お試し移住住宅」や、
仕事と住まいをセットにした「ワークプレイス付き住居」などの取り組みが、
長崎市・諫早市を中心に始まっています。
出生率が高いということは、未来を生み出す力があるということ。
その芽を地域に根づかせるために、空き家は“希望の器”になり得るのです。
4.空き家活用が地域再生のカギに
当社では、空き家を単なる不動産としてではなく、「地域の再生装置」として捉えています。
長崎市の中心部では、古い住宅や商業建築を改装し、シェアオフィス・アトリエ・移住者向け住宅として活用する動きが活発化しています。
一軒の空き家に灯りがともることで、周囲にも人の流れと交流が生まれ、結果として街全体に温度が戻ってくる。
私たちはこの循環を「再生の連鎖」と呼んでいます。
こうした流れの象徴ともいえるのが、長崎市中心部・魚の町にある**「魚の町マンション(旧魚の町団地)」です。
この建物は1929(昭和4)年に建設された、日本最古の鉄筋コンクリート造集合住宅のひとつで、
当時は最新鋭の都市住宅として注目を集めました。
戦後も長く住民に愛されてきましたが、老朽化や空室増加により一時は解体の危機に直面。
しかし、近年この建物を「残しながら活かす」**取り組みが始まり、長崎市の空き家再生の象徴として再び注目を集めています。
プロジェクトでは、構造上安全性が保たれていた躯体を生かしながら、
外壁補修や配管更新、耐震補強を実施。
内部は現代の生活に合わせてリノベーションされ、現在では
アーティストのアトリエやデザイン事務所、個人の住居として再活用されています。
1階部分には小規模店舗やギャラリーも入り、昼夜問わず人の往来が戻りました。
「古い建物の価値を残したまま、今の暮らしに合わせる」
この考え方は、単なる建築再生ではなく、地域の文化的記憶を継承する再生でもあります。
魚の町マンションの取り組みは、
「古い建物は取り壊すしかない」という固定観念を覆し、
“長崎の時間を積み重ねるリノベーション”の新しい形を示した事例といえるでしょう。
このような成功例が示しているのは、
再生とは「新しく建て替えること」ではなく、「古いものに新しい意味を与えること」。
長崎の街には、まだ数多くの眠った建物が存在しています。
中通り商店街の古民家、斜面地の空き家、そして魚の町のような歴史的建造物。
それらをどう活かすかが、これからの地域の未来を決める分岐点です。
当社でも今後、こうした長崎独自の建物の再生事例を積極的に研究・支援していきます。
一軒の空き家を蘇らせることが、やがて一つの通りを変え、街全体を再び動かす――
私たちはその確信を持って、地域に根ざした空き家再生に取り組んでいます。
5.まとめ ― 空き家を「負動産」から「地域資産」へ
空き家を放置すれば、時間とともに価値は確実に下がります。
しかし、人の手が入り、灯りがともれば、その家は再び街の一部として息を吹き返します。
古民家カフェ耕美庵のように、たとえ閉店しても人々の心に残る建物がある。
それは、建物が「人の記憶を宿す存在」だからです。
所有者にとっては、“手放す前に動く勇気”。
投資家にとっては、“地域とともに育てる目線”。
行政にとっては、“再生を支える仕組み”。
この三者の連携が生まれたとき、空き家は“負動産”ではなく“地域資産”に変わります。
株式会社NagasakiSTは、長崎市内の空き家を専門に扱い、
調査・売買・リノベーション・利活用支援を通して「空き家から街を変える」活動を続けています。
もしあなたが、
「実家が空き家になっている」
「住めるかどうかわからない」
「再生して人に貸したい」
そんな想いを抱えているなら、ぜひ一度ご相談ください。
空き家だからこそ、できることがある。
長崎の街に、もう一度灯りをともしていきましょう。